トラヴィス スコットら主催者側が無責任すぎる…死傷者発生の本当の理由は?【アストロワールドフェス2021】 

トラヴィス スコットら主催者側が無責任すぎる…死傷者発生の本当の理由は?【アストロワールドフェス2021】 

当時の会場の様子

現地時間2021年11月5日、アメリカのテキサス州ヒューストンで開催されたAstro World Festival (アストロワールド フェスティバル)。

パフォーマンス中に群衆事故が起き、300人以上が怪我、そして10人が亡くなりました。

主催者は、ラッパーのTravis Scott(トラヴィス スコット)と、ライブの企画運営を行う会社、Live Nation(ライブネーション)。

前回の記事では、犠牲者を生んでしまった当時の会場の様子を特集しました。

SNSにアップされている動画をまとめましたが、ショッキングな映像が多いです。

自己責任での閲覧をお願いいたします。

誰もが楽しむために参加したはずのAstro World Festival (アストロワールド フェスティバル)

なぜこれほどまでの大惨事になってしまったのでしょうか。

死傷者発生の理由

この記事のTravis Scottの写真は、全て事故当日に撮影されたものです。

まず、Astro World Festivalで死傷者が発生してしまった理由は一体何だったのでしょうか。一言でまとめると、「あまりにも人が多すぎて圧迫され、窒息してしまったから」です。

ですが、人が窒息するほど混雑しているところなど、なかなか想像がつかない状況です。前回はその状況について、詳しくまとめました。

今回の記事では、「なぜそれほどまでに人々が押し寄せたのか」ということを探っていきます。

調べを進めるうちに、驚くべきフェスの実態や、見逃せない事実が次々と明らかになってきました。それについてもまとめていきますので、最後までご覧いただければと思います。

まず、日本では「Travis Scottのライブ中に事故が起きた」と報道しているメディアがほとんどでした。

しかし、それは正確には間違いです。

事故はTravis (トラヴィス)のステージよりもっと前から始まっていて、本当はフェスの何日も前から問題が起き始めていました。

一体どういうことなのか、時系列でまとめていきます。

フェス数日前 明らかなスタッフ不足

ヒューストンの地元メディアに、フェスの警備員をした男性のインタビューが載っていました。

Astro World Festivalの警備員募集の広告がネットに掲載されていました。

私は販売員の経歴しかなく、警備の仕事はやったことがありませんでした。

それを正直に書いて応募したところ、採用されました。

今思えば、警備員の経験があるかどうかは関係なくて、ただ人が欲しくて雇ったのだと思います。

そして、会社から事前訓練を受けると思っていたのに、何もありませんでした。

唯一あった指示は「当日、黒い服を着てくること」。ただそれだけでした。

(ダリウス ウィリアムズさんの証言に基づく) 

https://www.click2houston.com/news/local/2021/11/11/astroworld-festival-security-guard-says-he-had-no-training-or-experience-ahead-of-event/

まず、たった数日前にも関わらず募集が出ているということは、十分な人数が集まっていないということです。

しかも未経験者へのサポートもなく、経験者がいたかどうかも怪しい。

この時点で、観客の安全はおろか、その前提にある警備員の安全すらも確保されていなかったということが分かります。

2021年11月5日 フェス当日

午前5時 観客が並び始める

Astro World Festivalの会場、NGRパーク。

会場は午後1時の予定ですが、早くも参加者達が現れます。

アメリカCNNによると、早朝5時にはすでに列ができていたそうです。

午前7時 警備員が集合

最初の観客が並び始めてから2時間後、ようやく警備が開始されます。

しかしそれは、決してフェスを管理できるようなクオリティではありませんでした。

上からの指示は何もありませんでした。

そして、トランシーバー(無線)が支給されなかったので、

警備スタッフのリーダーと連絡をとることが出来ませんでした。

(ジャクソン ブッシュさんの証言に基づく)

https://www.rollingstone.com/music/music-news/security-guards-sue-astroworld-festival-travis-scott-live-nation-aj-melino-1261479/

セキュリティ体制が不十分にも関わらず、時間が経つにつれ観客が増え、5万人が集まりました。

ちなみに5万人というのは、アメリカのフェスだとごく一般的な規模。

つまり、観客数的には問題がなく安全に開催できるレベルだったということです。

午前9時

Travis Scott (トラヴィス スコット)がステージに登場する12時間前。Astro World Festivalは、早くも崩壊し始めました。

午後1時から入場開始にも関わらず、ルールを無視した観客達によって、正門のバリケードが破壊されてしまったのです。

その様子がこちら。

この映像を見ると、基本的なルールを守らない観客がいかに許されてしまっていたかが分かります。

警備員は素人に見えますし、必要なのは馬ではなく人数ではないでしょうか。

そして、走ってくる観客の足を引っ掛けて転ばせるなど、あってはならない行動までもが見られます。

会場のスタッフがやる事とは思えません。

当日の会場。まだ早い時間帯の写真と思われます。

当然、入場者へのリストバンドの配布、金属探知機、持ち物検査など、通常行われる作業は全て放棄されました。

新型コロナのPCR検査の陰性証明の確認もされません

後になって、アルコールや麻薬を持ち込んでいた観客もいたことが分かっています。

手薄なセキュリティは、観客の混乱を招いただけでなく、ルールを守らない観客を許してしまう事につながってしまったのです。

整理券がきちんと配られていない、

整列のルールを守らない観客が指摘されない、

ゲートを破壊しようとする者が取り押さえられないなど、

観客達の「我こそが先に」という気持ちを助長する状態だったのではないでしょうか。

そしてその後、VIP席専用のゲートも突破されてしまい、そこから2000人が侵入したと報道されています。

この時点で、安全にフェスを開催できる状態だったと言えるでしょか?

アメリカのフェスでは、観客がこういった興奮状態になると「秩序を守らなければ、ライブを中止します」というアナウンスが流れることもあるそうです。

そういった注意喚起や警告なども不十分だったのではないでしょうか。

本来のイベントは、観客の秩序や安全が維持されてこそ成立するはず。

大量の不正入場が許されてしまったこの瞬間、Astro World Festival は「フェスとして破綻した」とも言えるでしょう。

午後5時

多くの日本のメディアでは、「Travisのライブ中に死傷者が発生した」というようなニュアンスですが、実際はそうではありません。

実は、Travis (トラヴィス)のライブの5時間前、午後5時頃には260人以上が怪我をし、既に治療を受けていたのです。

そして同時に、ヒューストン警察署から主催者に対し「危険な群衆の状態」と報告が入っていたことが分かっています。

ヒューストン警察署長のトロイ フィナー氏。事故後に開かれた会見にて

Astro World Festivalは、Travisのライブを行うことはおろか、早くからフェスの続行自体が危険な状態だったと言えます。

主催者が中止の判断を下さなければいけないタイミングは、最初に警察から報告が入った時から何度もあったのです。

それをあえて無視し続けた結果、観客の安全と命が奪われてしまいました。

午後6時

アメリカのWashington Post (ワシントンポスト)によると、Astro World Festivalでは2つのステージが用意されていました。メインステージと、セカンドステージです。

しかし、メインステージを使うのはTravisのみ。日中の他のアーティストのライブは、ずっとセカンドステージで行われていました。

セカンドステージで5時半から6時にパフォーマンスしたRoddy Ricch(ロディリッチ)。事故後、ギャラ全額を遺族に寄付すると発表しました。

つまり、メインステージの観客席はずっと開いていました。そのせいで、早くから待機を始める観客が多く、午後6時には満員状態だったのです。

これは、大惨事へと繋がる重要な条件の1つでした。会場はどんどん深刻な状態になっていくのです。

午後8時30分

ここで、決定的な出来事が起きました。

セカンドステージでのSZA (シザ)のライブが終了

彼女のパフォーマンスを見終わった観客が、一斉に動き始めたのです。

ここで、会場の地図を見てみましょう。


アメリカWashington Postによる会場の地図を和訳

セカンドステージの出口と、メインステージの観客エリアが繋がっていることが分かります。

このような構造と、手薄すぎる警備や誘導が相まって、人々はどんどんメインステージへと流れ込んでいきました。

アメリカのWashington Postによると、大勢が統制の取れていない状態で一斉に動き出したこの時、大惨事の前兆が現れ始めます。

出口に向かおうとする観客が、メインステージに向かう観客の流れに巻き込まれるようになったのです。次第に、前後左右から圧迫されて、身動きが取れなくなる人も出てきました。

こうして、既に満員だったメインステージに、どんどん観客が流れていってしまったのです。

もしこの時、「メインステージは満員なので入れません、前の人を押さずに退場して下さい」というような誘導があったらどうだったでしょう?

例え無理に入ろうとする観客がいたとしても、警備員がきちんと取り押さえていたら、どうなっていたでしょう?

恐らく、救われていた命があったはずです。怪我を負わずに済んだ人が大勢いたでしょう。会場はついに最悪の状況を迎えます。

午後9時

Travisのステージが15分遅れで始まりました。もうこの時すでに、会場は大混乱です。

あまりにも人が密集してしまい、圧迫され、窒息し、失神する人が大勢いました。

気絶した後は地面に倒れ込んでしまいますが、誰も助けることはできません。

周囲にいるのは、混雑の波に飲み込まれ、自分の体をコントロールできない人々だけ。

気絶した人々の上にさらに人が重なったり、足で踏まれたりし続けるのです。

この時にはもう、想像するだけでも苦しい、地獄のような状況に陥っていました。

混乱する会場の様子は生存者のSNSにアップされていて、前回の記事で詳しくまとめています。

やがて、身の危険を感じた観客達が「ライブを中止して!」と声を合わせ叫びました。しかし、彼らの訴えは無視されるばかりでした。

https://www.tiktok.com/@cpvris_/video/7027935087660371206?is_from_webapp=1&sender_device=pc&web_id7041526086823609857

ライブの中止をカメラマンに直談判する観客までいましたが、聞き入れられることはありませんでした。

https://www.tiktok.com/@thekempire/video/7027586758925700357?is_from_webapp=1&sender_device=pc&web_id7041526086823609857
カメラマンは彼らを無視。「ここから降りろ」というような仕草をします。あまりの対応に、彼らは絶望しました。彼はおそらく、ライブを配信したApple Music の関係者や、その子会社の人間の可能性が高いでしょう。

午後9時30分

多くの観客が身の危険を感じている中、消防署にとある記録が残されていました。

CNNの調査によれば、ヒューストン警察が主催者に「たくさんの人がステージ前方で気絶し、踏みにじられている」と報告したという記録です。

彼ら主催者側は、この期に及んで警察の警告を無視していたのです。

Travisは歌い続け、音楽は鳴り響き続きました。

さらに、その20分ほど後にも「大量の死傷者事故が起きている」という報告があったことも明らかになっています。

午後10時10分

Travisのステージがようやく終了。彼のステージは、たくさんの犠牲者を生みながら1時間10分も続けられました。

終盤にはゲストのDrake (ドレイク)も登場しましたが、状況は悪くなるばかりだったようです。

医療体制も崩壊していた

ここまで、いかに不十分なセキュリティがだったかという事については触れてきました。

しかし、手薄だったのはそれだけではありませんでした。怪我人が出た際の医療体制もままなっていなかったのです。

観客席で気を失ってしまった患者が、担架で運ばれるも途中で落とされてしまう動画がアップされていました。

大勢で担架を運んでいるにも関わらず、なぜこのような事態になってしまったのでしょう。

動画をよく見てみると、彼女を運んでいるのはほとんどが警察官だと分かります。

なぜ、医療のプロである救急隊が運んでいないのでしょうか

その理由は、当日の現場に関わった人たちの証言を聞けば分かります。

会場付近に作られた献花スペース。亡くなった方へのメッセージなども置かれています。

一般的に音楽フェスでは、会場で民間の医療会社が待機し、すぐに医療措置を行えるようにしておきます。

Astro World FestivalではPara Docs Worldwide (パラドックス ワールドワイド)という会社が雇われていました。しかし、今回起きた事故は、とても彼らのチームだけで対応できる規模ではありませんでした。

うちのスタッフは、11人の心停止を同時に治療しなければならない場面もあった。

大きなトラウマとなる出来事だった。

「Para Docs Worldwide」CEOアレックス ポラック氏の証言

https://edition.cnn.com/2021/11/15/us/astroworld-paradocs-medic-company-cardiac-arrests/index.html  

亡くなったブリアナ ロドリゲスさん 16歳

担架で運ばれていた女性のように意識を失っていたり、心肺停止の患者が大勢いた状況です。

これほどの緊急事態であれば、彼らは地元の消防署に連絡し、救急隊と協力して医療措置を行わなければなりません。

1分1秒を争う状況ですから、スタッフ同士が患者の居場所や状況確認し合い、効率よく患者の元へ駆けつけなければなりません

しかし、Para Docs Worldwide(パラドックス ワールドワイド)の医療チームと、ヒューストンの救急隊は、連絡をうまく取れていなかったのだそうです。

亡くなったフランコ パティーノさん 21歳

Para Docs Worldwide のスタッフから携帯番号が渡されました。

こういった緊急事態で必要なのは無線です。

しかも、電波状況が悪いため、結局携帯電話は使えませんでした。

我々は警察署を通して通信するしかありませんでした。

ヒューストン消防署 サミュエル ペーニャ署長

https://edition.cnn.com/2021/11/15/us/astroworld-paradocs-medic-company-cardiac-arrests/index.html
ヒューストン消防署 サミュエル ペーニャ署長 事故後の会見にて

つまり、救急隊が会場に到着していたものの、患者のもとにうまく配置されていなかったのです。

先ほどの動画はまさにそのような状況だったのです。患者の近くに居合わせた警察官が、救急隊の仕事を肩代わりしていたのでしょう。

亡くなったジョン ヒルガートさん 14歳

医療体制が不十分だったとも考えられますし、通常では考えられないほどの怪我人が出たとも捉えられます。

どちらにせよ、「すぐに助けてもらわなければならない人が、助けてもらえなかった」という事実は、残念ながら変わりません。

危険な会場だった

閉じ込められた観客達

亡くなったエズラ ブラントくん 9歳

そして、Astro World Festivalのずさんな計画の中で、見過ごしてはならない事実がもう1つあります。

実は「会場が危険な構造だった」という専門家の指摘が入っているのです。

明らかに観客が密集しやすいエリアがあります。

人数を調整することができない(そこから脱出することができない)、危険な構造です。

このような状況で、主催者はメインステージに向かう人々の流れを遮断しませんでした。

(群集の安全・リスク分析専門のサフォーク大学の客員教授 キース・スティル氏)

https://www.washingtonpost.com/investigations/interactive/2021/what-happened-astroworld-travis-scott/ 
亡くなったバルティ シャハニさん 22歳

観客席にはバリケードがありました。

これが観客を閉じ込めてしまい、人々の密度を高めました。

バリケードのせいで、圧迫されても脱出できなかったのです。

亡くなった人が発生したエリアでは、1人あたりの面積がわずか0.17㎡だった計算になります。

(カーネギーメロン大学の群集専門家)

https://www.washingtonpost.com/investigations/interactive/2021/what-happened-astroworld-travis-scott/

「観客席のバリケード」というのは一体何のことでしょうか?

ここで、メインステージ前の観客席の写真を見てみます。

アメリカBBCより

「バリケード」とは、メインステージ前の十字形になっている部分の事で、金属でできていました。

その為、簡単には乗り越えらえるようなものではなかったのです。

このバリケードを造ったのは「警備員や医療チームの通路のため」とも、「ステージの撮影をしやすくするため」とも言われています。

あるべき物がなかった

また、問題があったのはステージ周辺だけではありません。

会場全体の照明が不十分で、一般的なライブよりも暗かったのです。

医療チームは暗い中で治療しなければならず、とてもやりにくかったそうです。

亡くなったジェイコブ ジュリネックさん 20歳

さらに、会場はとても広く、1周するのに45分かかったそうです。それにも関わらず、給水所はたった2つでした。

また、看板がほとんどありませんでした。

警備員が多少不足していても、看板がたくさん設置されていればどうだったでしょうか。

観客の無駄な動きは確実に減るでしょうし、スムーズな退場を促せていたかもしれません。

観客の暴走への警告をあらかじめ掲げることもできたでしょう。

主催者らは「責任はない」と主張

フェスの開始直後から破綻していたAstro World Festival。

主催者は中止もせず、十分な対策も取らず、警察の警告を無視し続けました。そして、観客の訴えや助けを求める声すらも無視したのです。

Travis Scott、Live Nationはじめとする主催者たちは、人々を楽しませるはずのイベントを、歴史的な大惨事へと変えてしまいました。

スタッフや施設が不十分だった理由は、恐らくコストカット。これに尽きるでしょう。

彼らは、合計で10万人分のチケットを売りました。少しでも多く儲けるために、人々の安全を犠牲にしたのです。

これほどずさんな計画を実行し、あまりに浅はかな選択肢をとった彼らには、大きな責任があるはず。

しかし驚くべき事に、Travisは「大量の死傷者がいたことは、翌朝まで知らなかった」と弁護士を通じて発表

そして「自分たちに責任はない」というのが、彼ら主催者側の主張です。これほど恐ろしい責任逃れがあるでしょうか。

命を落としてしまった方、遺族、心身に大きな傷を負った人々のことを考えると、本当に心が痛みます。

亡くなったロドルフォ ペーニャさん 23歳

これまでの内容を考えれば、主催者側が死傷者の発生を知っていたことは明白です。

そして「Travisは状況を知らなかった」とは、あまりにも苦しい言い訳ではないでしょうか。

彼らは本当は「状況を分かってはいたが、あえて中止しなかった」のではないでしょうか。

そして、誰かが「怪我人が出ているが、中止するな」と言っていたのではないでしょうか。だからこそ、人々の訴えを無視してまで続けたのだと思います。

しかし、 それがTravisの独断で、彼が勝手に決めていたというのは考えにくい話です。

では、そこまでしてライブを中止しなかった本当の理由は何なのか。

そして、その判断を下していたのは一体誰なのか。

次回の記事ではそれらの疑問についての考察をまとめます。